RPGの主人公になってみた結果

世界一周6月18日スタート

タイムズスクエア年越しカウントダウンは絶対行くな

アメリカ横断、最後にして最大の目的はNYタイムズスクエアで年越しカウントダウンをすることであった。

その瞬間、世界で最も盛り上がるといっても過言でないタイムズスクエア

世界中のセレブや著名人さえも足を運ぶという。

だが金も権力もないこの小畑が、参加する方法は存在するという結論に至った。

晦日の朝からタイムズスクエア内で寒空の下、年越しの瞬間まで約15時間かけて場所取りするというパワープレイだ。

タイムズスクエアは大晦日当日の昼前に入場制限される。

逆に言えば入場制限される前にタイムズスクエアに侵入しておけば、そのまま年越しまで滞在可能ということだ。

ただし、入場したら最後タイムズスクエア内にトイレはない。よって、オムツを履いての入場になる。前日もしくは当日の朝からの断水及び文明人としての誇りの破棄が暗黙の参加条件であった。

不安でなかったと言えばウソだ。

でも僕には、この旅で学んだことが1つある。

僕はいつだって、一人じゃない。

アメリカを共に横断した仲間達が僕にはいる。

そして、このタイムズスクエアに来ている人は皆、この小畑がそうであったように

「2018年最後の瞬間を最高にカッコよく過ごしたい。そして、それをインスタでひけらかしてチヤホヤされたい!!!!」

と、同じ旗の元に集まったに違いない。僕は一人じゃない。

決戦当日

12月31日 10:00

ここから15時間に渡る僕達の闘いが幕をあける。

断水もしてきた。なるべく使いたくないがオムツもはいている。抜かりはない。

どうやらこの空間にあるのは売店が1つだけのようだ。まぁ水一滴飲めない以上、お世話になることはないがな。

12月31日 11:00

入場制限がかかった。もう後には引けない。

もう1回くらいトイレに行っておけばよかったと既に精神的に不安定になる。

このタイムズスクエアでは肝臓よりメンタルの強い者が生き残るということは本能的に理解していた。

12月31日 15:00

既に横断メンバーのうちの1人が帰らぬ人となった。オムツの世話になった以上、彼の今後の社会復帰は厳しいかもしれない。

ここで予報通り雨が降ってきたが、真実に気付いたのはこの時だった。

見渡す限り、タイムズスクエアに集まった同志達は皆、雨ガッパもしくはNorthfaceやColumbiaが誇る防水加工のマウンテンパーカに身を包んでいた。

一方、小畑の装備はどうか?世界一周当初から愛用していたUNIQLOのマウンテンパーカー(税込1980円)に防水機能があるわけもなかった。

資本主義社会であるアメリカには神はいなかった。代わりに存在したのは、僕と彼等の圧倒的な資本力の差であった。

気温はともかく、身体が濡れるのはヤバイ。

その頃、呑気にコタツで煎餅かじりながら家族でガキ使観ていたお前らに、これがどれくらいヤバイか伝えるため、わからやすい例えを出すなら

柔道大会に参加者全員柔道着の中、バスローブで出場するくらいヤバイ。

くそぉ!ちくしょう!ばかやろう!

僕の暴言の数々は、記念すべき年越しの瞬間のため、各国から集まった報道メディアによって世界中に中継されたことだろう。

12月31日 22:00

7時間ほど雨に打たれ続けた僕の身体は芯から冷え切っていた。

死期を悟った僕は、仲間の反対を押し切り、前述した売店の前に立っていた。

かじかむ手はポケットの中で雨でグシャグシャになった5ドル札を握りしめていた。

まさかコイツ、コーヒーを買う気かと売店の周りがどよめき始める。

コップ1杯の水すら危険なのに、利尿作用のあるコーヒーを飲むなんて自殺行為。正気の沙汰ではない。

ああ、自分の身体の事くらい自分でわかっているつもりさ。コーヒーを飲めば30分もたないだろう。僕は確実に漏らすだろう。

だがな

1回きりの人生だ。

たとえ漏らすとわかっていても、見たい景色があるんだ。

それにこの雨。もはや漏らしたって誰もわかりはしないのではないか?

天はむしろ完全に僕の味方でないか?

そう言って、僕は売店の親父が心配そうに淹れた、これで5ドルは高すぎるだろって感じのインスタントコーヒーを一気に飲み干した。

プハッと白い息が口から出た。

体に生気が少し戻るのを感じた。かじかむ手で乱暴に財布の中から5ドル札をもう一枚取り出し二杯目のコーヒーを注文した。

もう少しで待ちに待った年越しの瞬間なのに、僕は少し昔のことを思い出していた。

3年前、大卒したばかりの僕はオーストリアにいた。当時、教師を目指していた僕は、日本の教育のあり方に疑問を持ち教員採用試験を辞退。企業に就職活動する気にもなれず、ワーキングホリデー制度を利用し渡豪。しかし、自分のやりたいことを見つけられずに、やるせない日々を過ごしていた。

そんな僕が、ある日ふらりと立ち寄ったカフェで何気なく飲んだコーヒーがある。

大袈裟に聞こえるかもしれないが、あれほど美味しい飲み物は初めて飲んだ。

そのコーヒーを飲み終えた僕は、カフェで椅子から立ち上がり、その場で一人スタンディングオベーションしていたほどの感銘を受けていた。

そのとき僕はこんなことを考えていた。

コーヒーを淹れる仕事につきたい。

次の日、僕はそのカフェに弟子入りしてバリスタになった。オーストラリアのバイロンベイという港町の小さなカフェで起きた実話です。

一杯のコーヒーが僕の未来を変えた。

そして今日、またコーヒーが僕を救ってくれた。

やはり僕はバリスタで居続けたい。

あの空間にいるとドキドキするしワクワクするしギラギラしている自分がいる。

2018年が終わる寸前に2019年なんとなくやりたい事が決まった。

そんなことを考えているうちに、年明けのカウントダウンが始まった。

6...!!!

5...!!

保証なんてない。

4...!!!

でも、やれるやれないかじゃないだろう。

3...!!!

面白いか面白くないかだ。

2...!!!

帰国したら、すぐにでも新しく働けるカフェを見つけないとな。

1...!!

早くコーヒーを淹れたい。

0...!!!

その瞬間、物凄い量の光と人々の歓喜の声でタイムズスクエが包まれた。

飛び跳ねて記念すべき瞬間を祝福する人々。なのに僕は動けなかった。寒いからではない。

漏らそうだったからだ。

オムツ使いたくないオムツ使いたくないオムツ使いたくない

もうオムツのことで頭がいっぱいでバリスタのこととかどうでもよくなっていた。

あれ?冷静に考えて

▲デメリット
真冬の北米で15時間屋外待機
オムツ履かされる
インスタントコーヒー1杯5ドル(600円)
水飲むの前日から禁止

●メリット
カウントダウンがなんか楽しそう

このイベント、メリットに対してデメリットありすぎね?????????

RPGは終わらない。

それでは。