思い込む。そいつも悪くない。
ほら、僕ってアレじゃないですか。聖人じゃないですか。
だから僕ほどになると徳の積み方がすごいじゃないですか。人様の徳奪いとって自陣に積むくらい徳徳してるじゃないですか。釈迦の言葉を借りると唯我独尊じゃないですか。
そりゃもうご利益受け放題ですよ。徳のクーポン券大量所持してるんですから。
そして10時間に及ぶ長く険しい道のりを突き進み、ついに姿を見せたサハラ砂漠は
雨が降っていた。
ご利益どころか、たたりである。
その晩は砂漠のテントに泊まることになっている。アラビアンナイトどころか、アラビアンナイトメアである。
砂漠にそもそも雨降るのかよ。サークロコダイルを呼んでくれ。仕事の依頼だ。この地を今すぐ枯らしてくれ。
以前より晴れ男という、限りなく汚名に近い勇名を馳せて来たのではなかったか。そうして泥臭く勝利を収めてきたのではなかったか。
満点の星空も夕日に赤く染まる砂の大地もへったくれもないと
僕の気分は、砂漠に突如現れた蟻地獄に捕まったアリのごとく沈んでいた。
僕はどこで徳の積み方を間違えたのか。いや、そもそも徳とは何ぞ。
ただ、こう思い通りにならない広大は世界を旅してると、思い通りにならない世界に美意識を感じるようになってくる。ヤンデレより俄然ツンデレ派である。
天気や時期など不確定要素で一々浮き沈みするのは馬鹿らしい。天候で浮き沈みするのなんて気球だけで十分である。悪天候でも逆風でだって宙に飛べる。そんな男に憧れて世界一周してるのではないか。
前までの僕なら、せっかく良いカメラ買ってんだし、せっかくこんな所まで来てんだし、良作取らねばと強迫観念に駆られていたかもしれない。
与えられなかったことを嘆くより
与えられたものをどう感じるか、どう使うか
そう一心にひたすらシャッターを切る。
暗雲が朝日を覆い隠す夜の朝の狭間のサハラ砂漠。
iPhoneで簡単に撮れる、駅前の本屋で買えるような綺麗な写真も良い。でもたった今、この場で、自分にしか切り取れない瞬間瞬間を写し出す。
そう思い込む。そいつも悪くない。いや、こんな肖像もこんな世界も素敵だと本心でそう思ったりもしている。
それは恐るべき克己心によって維持されている紳士的態度、もしくは阿呆の骨頂である。
雨の砂漠のキャンプベースに一泊してサハラを後に、現在モロッコ南部のトドラという町に流れ着きました。
いよいよ明日から11月中旬までゲストハウスで修行です。世界一周中の皆さん、遊びに来て下さい。
それでは。